アルコール消毒薬中毒

昨日の話です。
その前の日はなんとなく体がだるくて疲れやすい感じがしただけでしたが、昨日は起床したときから焼けるような喉の痛みと頭痛がありました。頭がボーッとして熱く、鼻の粘膜は乾ききっているし、何より胸にまったく息が入りません。予期せずに突然やってきた今までに経験したことのない症状でした。さすがに、「これはまずいかも」と思いました。


朝食時に向かい合って座っていると州子が、「どこか具合でも悪いの?」と聞いてきたので、
「やっぱりわかるんだな」と思って正直に症状を話しました。そして「コロナ感染だと思う?」と聞いてみました。こういうときの州子のものを観る力を僕は結構信用しているからです。
州子はジッと僕を見てから笑って「また何か悪いことしてたでしょ」と言いました。
これはなかなか心外な言葉でした。連休に入ってから外出も控えて心静かに過ごしているというのになんということを言うのでしょう。朝食を終えた僕は半ば呆れて道場に向かいました。このところ午前中の日課となっているのは静かに音楽を聴きながら思索を巡らしメールの返信や原稿を書くということです。これのどこがいけないんだ、まったく。
世の中が苦しいときにはクライスラーのバイオリンが聴きたくなるとどこかで書きましたが、最近はもっと悲痛なビリー・ホリディの歌唱がいつもより心に沁みます。そんな今の気分を理解するのに手助けとなってくれるものを探していると、聴きたいものがいつもとは違っていて、押入れから古いレコードを引っ張り出して聴いています。なかには数十年ぶりに聴くようなものがあって、それらのレコードのカビを落とすところから始めるのが日課になっています。それで今日もその作業から始めたのですが、そのとき吐き気と頭痛がして気がつきました。体調不良の原因はレコード洗浄に使ったアルコールでした。なんの疑いも持たずにイソプロピルアルコールを希釈してレコード盤に塗り、超音波で振動する洗顔ブラシで汚れを落としていたのですが、揮発させてずいぶん吸い込んでしまっていたようです。それで調べてみたらイソプロピルアルコールの毒性はエタノールの2倍だそうです。飲んでしまった場合の致死量も明示されていましたが、僕はその数倍の量を使って100枚以上のレコードを磨いたところでした。中毒症状特有の舌がピリピリする感じや唾液が金属の味がするような感じが確かにあります。そして空気中の毒素を呼吸に吸いこんだ時に起こる鎖骨の詰まった感じもあります。僕はもともと鎖骨を打撲で壊しているのですが、鎖骨の裏からべったりとした脂が出てきました。
これはもうはっきりとアルコールを吸い込んで起こした中毒だと納得しました。

州子に、「触りもしないでなんでわかったの?」と聞くと、「昔、あなたが夜中に写真の現像をするたびに中毒を起こしていたでしょ。苦しんで寝られないあなたに私が明け方に中毒操法をしたことが何回あったと思うの?あの時と雰囲気が同じだったのよ」と言われました。
やっぱり、よく見ているんですね。